世界遺産という格付信仰

2015.04.30

2013年6月に富士山が世界遺産に登録されてから早いもので2年が経とうとしています。
こんにちは、静岡8区のげんまけんたろうです。

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私も当時は静岡県議会議員として、本会議や文化観光委員会の審議でこの世界遺産登録についての質疑を繰り返してきました。

もちろん、富士山が世界遺産登録されることは私の願いでもありました。
世界遺産に登録されれば世界中から沢山の観光客が訪れてくれるでしょうから。

 

しかし、私はこの富士山を世界遺産にしようという流れの中で、なんとも言えない世界遺産信奉のおかしさと、その審査に大きな影響力を持つイコモスという組織のおかしさに疑問を持つようになりました。
そんな疑問を口にしてきたため、時には「あなたは世界遺産登録に反対なの?」と、他党の先輩議員から詰問されたこともありました。

 

世界遺産登録のためのアドバイスをイコモスが行う


富士山を世界文化遺産登録するために、2012年9月に国際専門家会議・フォーラムを開催。
専門家から世界遺産登録するためにどうしたら良いかというアドバイスを貰うという名目でした。
この専門家というのは海外から5名、国内2の専門家なのですが、海外からの5名というのはイコモスという世界遺産登録の調査や審査をするユネスコの諮問機関の委員たちです。
静岡県はその「専門家」たちに、一人20万円の謝礼を支払って来日してもらい、世界遺産登録のためのアドバイスをもらおうというのがこの専門家会議です。

これはおかしいでしょう

と私は思うのです。

 

私はもちろん、富士山を世界文化遺産登録されるように努力するべきだと思うし、私もそのために精一杯尽力したいと思っていましたが、しかし、審査をする人たちを事前に謝礼付きで呼んでアドバイスをもらう、というのはどうもしっくりきません。

しかもその報告を見てみると、イコモスの専門家の家族まで一緒に連れてきている。
さすがに家族の分の航空運賃などは県の予算で計上していなかったようですが、しかし県が税金で借り上げているバスにも同乗し、専門家とともに宿泊し、食事もしているわけですから、税金の使い道として正しいとはとても言えません。

委員会審議で当局に問いただしてみると、他の世界遺産登録を目指す地域も同様のことをやっているとのこと。
だとしたらこれはこれでなおさら、県の姿勢もさることながらイコモス自体のあり方の問題にもなるのではないでしょうか。

富士山の世界遺産登録が一度見送られ、イコモスを呼んでアドバイスをもらって、そのイコモスに審査してもらう。
これがほかのところでも常道になってしまったら大いなる問題です。

当時、県にその懸念を質したら、そのときにたまたま東京にイコモスがいるからこちらに回ってもらってアドバイスをもらう、外国人にはなかなか理解してもらえない富士山信仰などの部分もあるためアドバイスももらう必要があった、と苦しい答弁でした。
担当の職員からは「なるべくこのことはふれないでいただけませんか。世界遺産登録に響くと困りますので」と言われたこともありました。
確かに、世界遺産登録に向けここまで地元も県も努力をし、あと一歩のところで外国人にとって理解が難しい点があってそれが足かせになるんであれば、そこはきちんと説明をし、アドバイスを受けることはいいと思います。

しかし、「世界遺産登録」という印をもらうことが目的になることだけは避けなくてはいけないはずです。
富士山とその周辺の史跡を大切に保存し、後生につないでいくことが本来の目的であるはずですから、もし外国人の意見を聞く必要があるのであれば、実際に審査をする機関のメンバーにではなく、ほかの専門家に依頼した方がスッキリします。
そしてそれはイコモスや世界遺産そのもののレピュテーションにとってもスッキリするはずです。

イコモスによるアドバイス、ユネスコによる審査は年々厳しくなっていると聞いています。
厳しくなればなるほど、世界遺産登録を目指す国や地域はイコモスにおもねるようになるでしょう。
家族の同行も、過剰な接待も増えていくことになると思います。

我が国だけではありませんが、世界遺産登録をあまりに神聖化し、格付信仰をすることは避けなくてはいけません。
何のための世界遺産登録なのか、そもそもそれは誰が決めるものなのか。
ただただ世界遺産という権威を求めるのではなく、目標を見失わないようにしたいものです。

 

それでは、また。